BCP対策についてお悩みですか?
「事業継続計画」を意味するBCP対策は、すべての企業で必要です。不測の事態を想定した対策を行っておくことで、有事の際に混乱を防ぎ、企業や顧客へのダメージを最小限に抑えられます。
この記事ではBCP対策について、その概要や重要性、3つの業種における具体的な事例をご紹介します。
BCP対策は企業に不可欠のリスクマネジメントである
Business Continuity Planの略であるBCPは、日本語にすると「事業継続計画」です。自然災害など有事の際を想定して、企業が迅速な復旧を行い事業を継続するための方針や対応策をまとめておきます。
東日本大震災をはじめ、昨今では新型コロナウイルス感染拡大といった不測の事態が起きた際、企業はいち早く対応しなければなりません。事業を継続することは顧客の信頼にも直結するため、BCP対策はどの企業にも求められます。
BCP作成に必要な6つのステップ
東京都産業労働局によると、BCP対策には以下の6つのステップが必要です。
1.基本方針を決める
2.現状を把握して目標を設定する
3.課題を特定し対応策を決める
4.文書にまとめる
5.BCPの定着
6.検証、見直しの実施
参照:東京都産業労働局資料
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/docs/bcpleaflet2.pdf
1.基本方針を決める
2.現状を把握して目標を設定する
3.課題を特定し対応策を決める
4.文書にまとめる
5.BCPの定着
6.検証、見直しの実施
まず目的や適用範囲、どれだけ中断を許容するかという復旧要件やリスクシナリオといった基本方針を決め、現状を確認します。次に、事業継続に必要な経営資源の洗い出しや代替戦略、緊急時の連絡体制の整備などを行い、課題を特定して対応策を決めていきます。
対策が決まれば、文書にまとめて研修や訓練を通し社員に落とし込みます。演習が終われば検証や見直しを実施して改善を重ね、完成度を高めていくのです。
【事例】製造業・サービス業・医療福祉業におけるBPC対策
製造業、サービス業、医療福祉業という3つの業種において、国内で実際に行われているBCP対策を業種別にご紹介します。
製造業
・しげる工業本社避難訓練(▶初動体制の構築)
しげる工業株式会社の太田工場では、従業員約600人のうち350~360人が参加して毎年避難訓練を行っています。避難ルートや避難場所を明確にすることはもちろん、地元の消防と連携した訓練も行っています。
もともと工場付近には避難場所がなく、BCP対策の一環として地元区長と協議して、災害時には自社敷地を開放して地域住民の避難訓練場所にすることとしました。
この訓練は今後も継続する予定であり、さらに自動車メーカーなどの取引先も訓練に参加することで、受発注先との関係強化にもつながっています。
参照:内閣官房資料
・株式会社ケーヒン(▶初動体制の構築)
平成18年から自然災害におけるBCP構築に着手していた株式会社ケーヒンですが、東日本大震災は事前の想定を超えており、備えの成果はあったものの取り組みの不足も明らかになりました。
東日本大震災発生時には水道等インフラが長期停止の影響を受け、サーバー停止による生産管理機能の麻痺、部品の1社集中による生産制約等の課題が残りました。そこで同社は独自のBCM(事業継続マネジメント)として、以下を構築しました。
- 防災規定や対応マニュアルなどの見直し、全社防災委員会の組織化。それらを全管理職335名へ落とし込む
- 年1回の定期的な防災点検の実施。点検項目は統一化し、全拠点を対象に行う。
- BCPエキスパートの育成。BCP運用基準の熟読を義務付けや関係法令の勉強、自衛隊への入隊訓練やBCP訓練時の指揮を執る訓練も行う。最終的に資格取得をもってBCPエキスパートに任命する
- BCP訓練の毎年実施。国内全拠点で管理職は土曜日出勤し、有事の際の発電機運転や無線機、衛星電話の試運転を行うようにする。さらにサーバー電源の発電機回路の切り替えも行い、主要業務が継続できる訓練を行う
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2246.pdf
・株式会社神戸製鋼所(重要資産の防護と回復力の強化)
製鉄事業の運営を通じて半世紀以上自家発電所を運転してきた神戸製鉄所。同業他社より自家発電比率が高いという特徴があり、ボイラーやタービンという燃焼系技術を社内に集積していました。
同社では東日本大震災以降の電力需給のひっ迫や電力自由化の流れを踏まえ、新たな安定収益基盤を構築すべく電力事業の拡大を計画。その結果、地震の発生確率が低く、かつ津波被害の発生リスクが低い内陸部に立地している栃木県真岡市に、日本初の本格的な火力発電所を建設することにしました。
発電した電力は全量を電力会社としての東京ガス株式会社に卸供給する予定で、首都圏全体への電力の安定供給に寄与する計画を進めています。
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2036.pdf
サービス業
・道後温泉旅館協同組合(初動体制の構築)
愛媛県松山市の道後温泉では、南海トラフ地震などが発生した際の建物倒壊や火災が懸念されています。そこでBCP対策として、平成28年には旅館やホテル、銀行を含む43施設が合同防災訓練を実施しました。
訓練では地震による火災を想定し、通報や避難誘導、不明者捜索、本部への連絡などの連携作業に加え、起震車での地震体験や消火訓練、AED操作や担架作成など、救命訓練や発電機の操作訓練などを実施しています。
訓練以外にも、備蓄用にも機能する自動販売機や衛星電話、発電機やヘルメットの導入に取り組み、宿泊施設では最低1人以上の防災士の資格取得の推奨など、観光地ならではの活動に着手しています。
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2262.pdf
・京橋スマートコミュニティ協議会
京橋1・2丁目地域では、地元企業や地域熱供給会社、ビル管理会社の3社が「京橋スマートコミュニティ協議会」を設立。BCP対策に向けた取り組みをスタートしています。
災害時には清水建設本社を防災拠点として、緊急生活用水の提供、一時避難施設に対する熱の供給、地域災害情報の提供という3つの取り組みを行うため、定期的に訓練や演習を実施しています。
上記のBCP対策は平成25年にコミュニティ単位として初の事業継続マネジメントシステム(ISO22301)を取得しました。
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2013.pdf
・セコム株式会社(▶顧客の生活を支える)
平成25年9月に「リアルタイム災害情報サービス」の提供を開始したセコム。オープンデータと独自収集した情報をシステム解析することで、避難場所や危険情報をはじめとするBCP情報を提供しています。
契約企業は企業ごとの専用サイトで、その企業の管理担当者に向けた避難情報や大雨・土砂崩れといった危険情報の災害関連情報を提供しています。企業の店舗や社員のスキルといった情報と融合して、より契約企業に沿った内容をカスタマイズ提供している点が特徴です。
また震度7クラスの大地震でもセキュアデータセンターの機能を維持できるよう、強固な耐震対策を施した「セコムあんしん情報センター」をデータセンターに併設。有事の際の機動性を高め、BCP対策を行っています。
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2307.pdf
医療、介護
・塚田こども医院(エネルギー供給の継続)
以前より非常発電装置を大小合わせ8台保有する塚田こども病院は、停電時における電子カルテなどの使用に十分に対応できるよう電力を確保しています。
寒冷地に立地するため冬季災害時の暖房の確保やエアコンのみでは足らず、薪ボイラーによる暖房施設を整備し、暖かい診療環境を提供できるようBCP対策を行っています。
「ノンストップ診療所」を目指し、3日分以上の燃料の備蓄や水洗トイレ用として200Lの貯水タンクの設置など備蓄関連も手を抜いていません。
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2054.pdf
・伊豆の国市社会福祉協議会(▶初動体制の構築)
平成28年2月、同市内の特別養護老人ホームを有する福祉法人と協力し、要介護者を想定した福祉避難所BCP対応合同訓練を実施しています。
行政や学校に警察、消防、そして福祉施設の法人などが訓練を行い、介護を必要とする高齢者や被災住民の誘導・搬送・捜索・災害ボランティア受け入れなどを行いました。防災体制の気づきを得るだけでなく、地域内での交流・連携活性化にもつながり成果を上げています。
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2267.pdf
・日本赤十字社足利赤十字病院(▶重要資産の防護と回復力の強化)
災害時には、被災者受け入れのため平常時以上の稼働が必要とされる足利赤十字病院。同院ではBCPを推進したMCP(Medical Continuity Plan)という考えに基づき、病院が5日程度運営できるよう整備しています。
非常用発電機や井水ろ過をはじめ、被災者の受け入れ場所となる講堂は300名収容でき、各利用の感染空調にも対応している点が特徴です。災害拠点病院として、自然エネルギーを利用した蓄熱システムによる電力負荷平準化に貢献するエネルギーシステムを構築し、十分な機能を備えています。
参照:内閣官房資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/h29_minkan/pdf/2025.pdf
まとめ
BCP対策について、概要や取り組み事例をご紹介しました。この記事をまとめます。
- BCP対策とは、有事の際事業を継続させるために必要なものである
- BCP対策は、基本方針の作成や目標設定、課題の特定といったステップが必要である
- BCP対策の細かな手順は企業ごとに決める必要があり、業種や企業のサービスによってさまざまである
不測の事態に備え、BCP対策は必要不可欠です。ご紹介した手順や事例を元に、ぜひ自社の事業継続に必要なBCP対策を講じていきましょう。